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■ 2023年度 事業計画

【 1.調査研究活動
. 日本教育史研究部門
「高度経済成長期教育史」研究部会

研究者
米田 俊彦(お茶の水女子大学教授)
大島 宏 (東海大学教授)
須田 将司(学習院大学教授)
鳥居 和代(金沢大学教授)
西山 伸 (京都大学教授)

 本研究部会は2023年度で2年目に入る。対象とする「高度経済成長期」は1960年頃から1973年の第一次石油危機の頃までとしている。高度経済成長期には日本社会全体が一気に工業化、都市化、富裕化し、高校・大学進学率が急上昇するなど教育の様相も50年代から大きく変化する。経済成長を背景とする能力主義的競争の拡大、浸透にとどまらず、教育史研究として掘り下げて検討すべきテーマは数多くあるものの、1950年代以上に研究は進展しておらず、教育史研究の課題を提示する意義は大きいと考えている。研究の期間は、資料の探索、収集自体が開拓的な作業を伴うので、4年から5年を想定している。

@大島宏:高度経済成長期における高等学校の量的拡大をめぐる動向について調査研究を行う。本年度は、特に、高等学校生徒急増をめぐる文部省の政策動向と政治過程に関する調査・分析を行う予定である。
A須田将司:高度経済成長下に進められた「原子力平和利用」の世論形成と「原子力発電所の誘致・建設・稼働」に着目し、これに対する教育界の動向を調査している。本年度は、推進側・反対側の双方を視野に、当事者意識に迫り得る資料の調査・分析を進めていきたい。
B鳥居和代:1960年代を中心に日本各地の学校において、ことばを良くする(ことばなおし)運動が展開された。本年度は神奈川県鎌倉市の腰越小学校の事例に焦点を当てて、この取り組みが生成し終焉した歴史的背景・要因を考察する。
C西山伸:高度経済成長期における高等教育の動向について引き続き調査研究を行う。本年度は、1960年代後半のいわゆる大学紛争について、研究史を整理するとともに一次資料の調査を行う。
D米田俊彦:日教組は勤評、学テ闘争や反日教組団体の拡大により弱体化する一方、1960年代に入って文部省と自民党は幼稚園の普及、標準法改正による学級規模縮小、教科書無償化等の政策を積極的に推進する。それを受けて1971年の中教審答申と給特法制定までの政治過程と教育政策の構図を明らかにすることを目指し、当面は『時事通信 内外教育版』の記事の情報を整理する。

ロ. 社会教育研究部門
「教育と公共」研究部会

研究者
上野 正道(上智大学教授)
浅井 幸子(東京大学教授)
狩野 浩二(十文字学園女子大学教授)
田嶋 一 (國學院大學名誉教授)
仲田 康一(法政大学准教授)
藤井 佳世(横浜国立大学教授)

 2019年度に発足した本研究部会は、「教育と公共」のテーマで研究の蓄積を重ねてきた。2023年度はこれまでの共同研究の成果を踏まえ、紀要論文執筆を視野にさらに研究を発展的に進めることとする。メンバーの年間計画は、次の通りである。
@浅井幸子:2023年度の研究では、レッジョ・エミリアの幼児教育の歴史に即しつつ、自治体における運営への参加と教育アプローチの統合が「公共空間としての学校」を構成している様相を明らかにする。論文の構成は以下の通り。
タイトル(仮):公共空間としての学校:レッジョ・エミリアの幼児教育
  1. レッジョ・エミリアの幼児教育
  2. 公立学校の成立過程
  3. 教育的コミューン
  4. コモン・ワールド
  5. 市民としての子ども
A上野正道:2023年度の研究では、シティズンシップと民主主義の学習について、デューイの民主主義と教育の主張から「世界中心の教育」を目指すビースタへの理論的接続と更新に着目して明らかにすることにする。なかでも、教育と公共性をめぐる議論について、「政治的主体性」をめぐるデューイとビースタの理論を取り上げて検討する。具体的には次のような論文構成で論じていくこととする。
タイトル(仮):教育の公共性と民主主義の再構成
  1. 教育の公共性とシティズンシップの学習  
  2. デューイ以降の教育論における民主主義の政治と倫理
  3. シティズンシップと世界中心の教育―デューイからビースタへ―
  4. 教育の公共性と民主主義の再構成
B狩野浩二:斎藤喜博は、師範学校を卒業し、群馬県において小学校教員として教育実践を展開、41歳にして島小に赴任した。その実践の特徴は、一言で言えば、子どもの上に美を実現するということである。はたして、この発想はどこから導かれたのか? 島小は、地方の公立小学校を舞台にした教育実践という特色を持つ。そうした舞台設定と斎藤の独自性との間には、いかなる関係があったのだろうか? 教育実践における公共性の実現について、斎藤の実践に即して明らかにする。
タイトル(仮):教育実践における公共性の実現―斎藤喜博の場合―
  1. 斎藤喜博における学校づくり―授業と表現活動のかかわり合い―
  2. 島小の学校づくり―11年間にわたる学校づくりの展開と教育術の創造―
  3. 教師教育と教師たち
  4. 子どもの美の発見と創造という課題
C田嶋一:日本の社会は、戦後教育改革期に、憲法、教育基本法、公選制教育委員会などを制定し、民主主義の社会にふさわしい公共的な教育の実現をめざした。しかしながらこの時期の「上からの改革」の理念が社会に定着し成熟しているとは言いがたい。教育の公共性を求めて、戦前の日本の社会では、さまざまな教育運動が重層的に展開した。その歴史過程は、国家本位の中央集権的な公教育論と、民間の教育運動から生成する自律的な公教育論との競合・確執の歴史過程であった。日本社会に生成した公共の思想と実践の内包外延を明らかにしたい。
タイトル(仮):日本の社会に現れた教育をめぐる公共的発想の系譜―開国期から大正デモクラシー期にかけて
  1. 開国当初の教育における公概念の性格
  2. 自由民権運動期の教育の自由・自治論
  3. 大正デモクラシー期の教育をめぐる公共的発想
D仲田康一:これまで行った英国における学校制度改革の研究を踏まえ、公教育の性格の変容を、民営化や商品化の観点から跡づけしつつ、英国の教育研究、中でも、教育政策と特に戦後の一時期において強い関係を持っていた教育社会学の知見を借りながら、いかなる展望がありうるか検討する。
タイトル(仮):英国における公教育の性格変容とその課題
  1. 公教育と総合制の理念
  2. 「学力」アジェンダの台頭と公教育内外の競争の編成
  3. 断片化と標準化した学校制度
  4. 総合制からコモン・スクールの理念へ
E藤井佳世:これまでの報告をもとに、人新世の時代における豊かな人間形成と教育の公共をテーマとし、考えをまとめていく。ドイツにおける批判理論と教育学の関係の更新を念頭におきながら、具体的内容としては、人間形成における公共圏の問題を明らかにし、教育の公共を公と私の重なる実践の空間として捉え直す。タイトルと章立ては、次の予定である。
タイトル(仮):人間形成における市民的公共圏の問題
  1. 市民的公共圏の素描 
  2. 人間が学び変容することとしての教育 
  3. 教育の公共空間

ハ. 教育心理研究部門
「人生のやる気デザイン」研究部会

研究者
渡辺 弥生(法政大学教授)
榎本 淳子(東洋大学教授)
倉住 友恵(駒沢女子大学准教授)
杉本 希映(目白大学教授)
中井 大介(埼玉大学准教授)
中谷 素之(名古屋大学教授)

 本研究部会は、生まれてから死を迎えるまでの生涯発達をターゲットに、人生をよりよく生きるための駆動力として必要な「やる気」に焦点を当てる。昨年度は目的を具体的にしてデータを集め研究成果を共有してきた。今年度はこれまでの発表をベースに、さらに具体的、実践的に各自の研究テーマを掘り下げ、論文・紀要にまとめることを視野に活動する。
@榎本淳子:医療でのやる気 先天性心疾患を持つ患者の生涯発達
面接調査や研究レビューを通して、1. 患者が発達を通して経験する困難や葛藤の情態 2. それらの困難や葛藤を克服するプロセス 3. 克服を妨げる/促進する要因について、社会的文脈を含めて検討していく。最終的には患者が病気と共生し、より良く生きるあり方について考えていきたい。
A倉住友恵:大学生のやる気 未来展望とその規定因
時間的展望の中でも未来展望を取り上げ、未来展望がどのような要因や介入によって形成されるのか文献研究を進める。また、より望ましい未来展望を促進するための介入について開発し、その効果を検討すると同時に、未来を展望することによってやる気が変化するのかについても実証的に検討する。
B杉本希映:子どもたちのやる気 Gritの適応的なあり方
2023年は、これまでの文献研究での知見を活かし、Grit(やりぬく力)についての定性調査と定量調査を計画し実施することとする。定性調査としては,1つの目標を継続的にやり抜いた人を対象にインタビュー調査を行い、そのプロセスを明らかにする。定量調査としては、青年期から中年期を対象にGritの適応的なあり方を明らかにする。
C中井大介:恋愛のやる気 恋愛関係・夫婦関係における自己拡張欲求および自己包摂と関係の形成・維持の関連
自己拡張理論の観点から、青年期の恋愛関係、成人期の夫婦関係を自己拡張欲求と自己包摂の観点から捉え、これらが恋愛関係・夫婦関係の形成・維持や精神的健康とどのように関連するかを明らかにする。調査方法は,質問紙法と面接法を予定している。今年度は質問紙を作成し、青年期の大学生を対象に質問紙調査を実施する予定である。
D中谷素之:学校でのやる気 激変する教室環境と子どもの動機づけの促進
近年のグローバル化や教育DX、そして 2020年以降のパンデミックにより、学校や教育を取り巻く環境は激変した。すでに教室での学びは対面・非対面の両方を意味するものとなったが、一方でそれだけ他者との対面交流による学習の重要度は高まったと考えられる。激変する教室環境における教師と学級の役割に注目し、やる気を維持、向上できる授業や学級のデザインについて実証的に検討し提起する。
E渡辺弥生:学びと感情 ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)をベースにした「授業」とは
やる気を喚起する前提として、考える、行動するといった視点からだけでなく、感情面からのアプローチに着目する。感情リテラシーの解明をもとに、学校教育の中でどのように指導していけば良いのか、具体的な実践のあり方を探る。これまでの指導案をSELの視点から分析し、心の教育に縛られずに、あらゆる教科や学校生活に導入できるアプローチについて考えてみたい。

ニ. 幼児教育研究部門
「幼稚園におけるリスク・マネジメント研究部会」

研究者
秋田 喜代美(学習院大学教授)
大澤 洋美 (東京成徳短期大学教授)
久留島 太郎(植草学園短期大学教授)
境 愛一郎 (共立女子大学准教授)
箕輪 潤子 (武蔵野大学教授)
宮田 まり子(白梅学園大学准教授)

 以下3点を2023年度の計画とする。第一に、22年度末に行ったシンポジウムとリーフレット作成を基に継続研究の学会発表や論文化を図ること。第二に、年度末までに野間教育研究所紀要として、遊びとリスクにおける一連の研究をまとめ刊行すること。第三に、紀要等をもとにして遊びとリスクに関する研究所のシンポジウムや学会等での自主シンポジウム企画を立てて開催し、リスクガイドラインの在り方などに関わり一連の研究のアウトリーチ活動を行い、テーマの完成を目指す。

実験学校・野間自由幼稚園
 現在進行中の幼児教育研究部会の調査研究の対象として活用する。
 
【 2.講座・セミナー・育成活動
 
・コロナ感染状況を見ながら伊東市の幼児教育課と共同で子育てセミナーを開催予定。
・コロナ感染状況と調査研究の進み方を見ながら、教育心理研究部会、及び幼児教育研究部会主催でセミナーを開催したい。
 
【 3.教育現場での相談・助言
 
・野間自由幼稚園の行事や職員会議、保護者とのコミュニケーション等を、調査研究活動、相談・助言・指導、および広報活動の場で利用する。
・開設している幼児教育相談窓口に加え、他の教育研究部門に関しても、相談・助言を受け付ける窓口の開設を目指す。
 
【 4.広報活動
 
・2023年度も、広く情報発信するために、研究活動の内容をホームページ上で公開し、広く一般のユーザーもダウンロード可能としていく。
・セミナーやシンポジウム、紀要等の出版物などの告知についても、ホームページと連携させ、適宜チラシやポスターなどを作り、広報に努めたい。具体的には、ホームページのリニューアルを計画している。
 
【 5.図書館運営
 
 2023年1月末の蔵書数は、計34,888冊。野間教育研究所の特殊コレクションである学校沿革史誌類は、教育機関の寄贈協力があり、8,867冊となる。
 2023年度は各研究部会のテーマに即した図書・資料などの充実を意識しながら、引き続き教育関連の書物や資料の収集を進め、データの整備、図書の補修、目録の作成などを続行。貴重な資料の開架閲覧を続けられるよう、本年度も蔵書の脱酸性化処理と補修製本を継続的に行っていく。
特に、古書店より入手した文部官僚安達健二氏旧蔵資料のデジタル化が進行中。戦後初期の貴重な一次資料のため、研究員による解説も含めてサイト上に公開予定。
新型コロナウイルス感染症流行が続いているなかでも、利用者が安心して閲覧できるよう、来所者の検温やマスク着用・手指消毒など感染対策を徹底し、図書室の利用を維持できるよう努める。


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